総悟結核ネタです / ものすごくくらいです






















く れ な い










例えば大切にしていた鳥が死んだ時。近藤さんは言った。それは黄泉の国への旅路についたという事 なのだと。いずれは誰もが足を踏み入れる路なのだと。だから寂しい事など何も。何も無いのだ、 と言った。






















ばさばさと便箋何枚にも渡る長い長い手紙が風にさらわれそうになっては、また落ち着きを取り戻す。 もうとっくに名前は忘れてしまった赤い花々の咲き誇る大地にこうして寝転がっていると、 自分がこの世に存在しているという事を忘れたくなる。目を閉じて、開ける。変化の無い青い空と、 その不変性を心から好む自分。血を吐いて眠ってを繰り返すこの生活にもいい加減慣れてしまったのだ 。また風が吹いて白い便箋が舞い上がる。カサ、と小さな音を立てて自分の視界を塞ぐように舞い落ち て来る。なんとも虚しいような感情が湧き上がって来た。
「逝っちまったんですねィ…。」
呟いても最早その言葉に反応する人はいない。本当に、ここには誰もいなくなってしまったのだ。






















近藤さんは板橋でその生涯を終えたそうだ。手紙にはそれまでの経緯とその無念さを伝える言葉が 列なっていた。土方さんはいよいよ北へ向かうしか無いらしく、もはやそれは敗走とも言うべき道に なっていた。山崎が毎月これでもかというぐらい詳細な手紙を送って来るのだ。自分が未だ真選組の 一員としているような感覚がして嬉しい事は嬉しいのだが。それでも自分が今剣を握っていないのだ という事実は、自分にとって大きな打撃となっている。
「近藤、さん。」
殆ど聞こえないような掠れた声で名前を呼ぶ。自分にとってある意味、彼ほど大切な人物はいなかった 。それは土方さんへ向ける愛とはまた異なった物で、だからこそ大切であった。心から尊敬していた。 泣きたくなって堪えようとして、けれど周りには誰もいないのだから思う存分泣いても良いではないか と思って、やっぱり泣く。
「こんど…さ……。」
目尻からこめかみの方へと涙は流れる。視界がぼんやりとして空の青と雲の白が滲む。どれだけ無念で あったことだろう。あの近藤さんの事だ。真選組の為に自分を犠牲にする事を厭いはしなかっただろう 。それ故に、終わりの瞬間は辛かったであるに違いない。






















黄泉の国へはもう辿り着いただろうか。暫く経ってからゆっくり上半身を上げる。手に力が入らなくて 一度倒れそうになる。剣どころか、自分の事ひとつ満足に出来ないでいる自分が情けない。周りは 一面の赤い花。庵のある方角と反対側は小高い丘になっていてその向こうは町が広がっているのだが、 丘のせいで見えない。まるでここが黄泉であるかのような感覚に陥る。それが好きでこの場所を最期の 場所にと決めたのだが、近藤さんが無くなった今となっては何故だか不思議な気持ちになった。 ここから逃げ出したいような、不思議な感覚だ。
(結局、怖いのか。)
近藤さんは慰めてくれたと言うのに死というものがやはり怖い。寂しくないと彼が言ったのは 多分、いずれ皆が黄泉の国で再会するからという意味なのだろう。けれど今こんなにも弱った自分 を目の当たりにして、彼を見付けられるのか不安になる。
(土方さん…寂しい。今すぐ抱いてほしい。近藤さんは、もう戻っては来ないんだ…。)






















例えば自分が死んだ時。それを誰が嘆くとのだろう。赤い花をつんでは花弁を一枚一枚散らしてゆく。 その儚さはまるで人間のようだ。目を細めて赤の波に埋もれる。それは、黄泉の国への旅路に似ていた。


















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