bis … <仏>もう一度,アンコール(◆フランスでアンコールを求めるときに使われる).









































例えばこれがひとつの劇であるとして、
自分はカーテンコールのその一瞬の為だけに生きる人形でしかないのかもしれない。











その日は朝から雨だった。雨は嫌いではなかったが、屯所の建物の構造上、冷え冷えとした空気が 直接部屋に流れ込んで来て、それが足の熱を奪って行くのは不愉快ではあった。 それでもここ数年で身に纏う息苦しい制服や、江戸の空気に違和感を感じる事は殆ど無くなった。 近藤さんの道場に拾われた頃から思えば、自分はもう随分と図太い神経を持つようになった気もする。
「沖田さん、会議始まっちゃいますよ。」
「んー…うん。」
真面目に部屋まで呼び出しに来た山崎に曖昧に返事をする。勿論行く気なんて無かった。 自分が行かずとも、真選組という組織は近藤さんの一存によって動いている。 それが不満な訳ではない。近藤さんの性格上、それが一番正しい道だと納得しているのだ。 近藤勲という男は不思議なもので、どこか人を引きつけるオーラを身に纏っている。 多分誰しもがあの屈託のない大きな笑顔に自分の身を任せたいと思うのだろう。 それはやはり土方さんにも同様に作用するようで、いつだって土方さんの優先順位は近藤さんで あった。
「ちゃんと会議に出て下さいよ。土方さんに殴られるのはいつも俺なんですから。」
土方さんが山崎に対してそういう態度を取るようになったのはいつからだったか。 もう覚えていないほど、俺達は長い時間を共に過ごしてきた。だからこそ、なのかもしれない。 だからこそ土方さんは山崎にそういう態度を取るのだ。
「そりゃ土方さんがお前に甘えているんでさァ。」
欠伸をひとつして、寝返りを打つと眉間に皺の寄った山崎の顔が目に映った。山崎はいつでも 不幸の代名詞とも言えるような顔をしている。どうしてそんな顔をするのか。自分には不思議で たまらなかったが、最近判るような気がして来た。
「もう…知りませんからね!」
「あー、山崎。」
「何ですか。」
「土方さんに伝言。明日の午後って言っといて。」
少し間を置いて、判りましたと山崎は言って出て行った。自分にはこうしてたまに山崎を虐める癖 があった。性質の悪い癖だとは自分でも思う。けれど、そうする事で今の地位を守りたかった。



山崎の気持ちに気がついたのは去年の夏。いつもの様に金曜の夜土方さんが自分の部屋にやって来た 時の事だった。土方さんはきっと気付かなかったのだろう。だけど俺はあの時廊下から土方さんの 名前を呼びかけた山崎の声をはっきりと覚えている。追い求める者に辿り着いた者と、 辿り着けなかった者。俺と山崎の間にはその時確かに大きな溝が出来上がったのだ。
(まあ、求めるって言うか…少し山崎とは形が異なるけど。)
雨は何時の間にか止んでいた。時間も気付けば夕刻をとうに過ぎていて、全く自分の時間に対する 認識の欠如に呆れてしまう。ごろごろと寝転がってばかりもいられないので、立ち上がって伸びをした 。外に出ようとして戸に手をかけて小さなメモが挟まっているのに気付く。土方さんからだった。 メモは明後日の夜の来訪を告げていた。明日は都合がつかないらしい。どうせ、近藤さんと 幕臣の機嫌取りにでも行くのだろう。
(そうだ、いつだって…)
いつだって土方さんは近藤さんが一番だった。こういう時に、ふと自分のしている事が馬鹿らしく 感じられる。自分の身の程を、知らされる気分になるのだ。部屋の隅にある鏡を覗き込んでも、 そこに映るのは他者と異なる遺伝子の産物でしかない。それが土方さんと自分の間にも、山崎と同じ 溝を作り上げている気がする。取り繕えなくなる気がする。最も、初めから自分には隣にいる 権利なんてものは存在しなかったのだけれど。
(早く…早く、終わると良い。)











たとえ土方さんがそれを望まなくても、自分にはその選択しかなかった。
自分はただ、許されたかったのだ。
許されたかっただけなのだ。












さがる  →→→001








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